奥島 輝昭 / Teruaki Okushima
Last-updated: <2019/09/24 10:39:02>
多自由度力学系の軌道不安定性による特徴付け
-
少数自由度系ではポアンカレ断面という運動の可視化法のおかげで、
比較的簡単に運動をイメージすることができます。
例えば、
これまでに明らかになった重要な結果として、
相空間で、不規則運動を示すカオス領域と規則運動をしめすトーラス領域とが
フラクタル的に複雑に入り組んだ様子で混合していることが明らかになりました。
- しかし、多自由度系の運動となると、このような便利な可視化方法は存在しません。
このように直接見ることのできない高次元系の複雑な運動を力学的に理解することをめざしています。
- まず、高次元運動に数値的にアプローチするため、
運動の特徴を抽出する力学的な指標として軌道不安定性に注目しました。
有限時間リャプノフ指数(軌道不安定性の指標の一つ)の高精度の数値アルゴリズムを開発し、
これを多自由度振動子系に適用することで、多自由度系でもカオスの強い時間領域と
エネルギーがほとんど長波長モードに集まる近可積分的な時間領域が交互に現れることをあきらかにしました。
-
このように高い精度で軌道不安定性を計算できるようになったため、
多自由度系ではじめて
近似的にトーラス運動をするベキ的な軌道不安定な領域から
高次元カオスの指数的軌道不安的な領域に、
軌道がスイッチする様子を数値的に確認することができました。
-
T. Okushima, Phys. Rev. Lett. 91, 254101 (2003) [journal]
[pdf]
-
Teruaki Okushima, Adv. in Chem. Phys. 130, Chap 25 [journal]
周期軌道を骨格とする高次元相空間構造の探査
- 非線形のハミルトン系でもポテンシャル極小の近傍の低エネルギー励起の運動は、
十分な精度で可積分の線形系で近似することができます。
-
近似線形系には自由度の数だけ周期解が存在します。
このような周期解はノーマルモードと呼ばれています。
-
では、エネルギーを徐々に増大させていくと
低エネルギー励起で存在するノーマルモード周期解はどうなるのでしょう?
-
周期軌道は低次元の不変な集合であり、
その軌道不安定性から近傍の相空間の情報を得ることができます。
-
もし、軌道安定に存在し続けるならば、その周期軌道の近傍には規則運動がへばりついていることが分かります。もしも、軌道不安定になるならば、はカオス軌道が近接している事が分かります。
また、周期軌道が分岐を起こして消滅するという可能性もあります。
-
周期軌道は非常に限られた運動様式ですが、
高次元相空間の構造を決める重要な力学的骨格ということができます。
-
これまで
両端固定および周期的境界条件のFermi-Pasta-Ulamモデルの周期軌道構造を調べました。
その結果、
高エネルギーまで周期軌道が存在することや、
不安定化や再安定化を繰り返しながら軌道不安定性が非単調に増大することを示すことができました。
-
さらに、低エネルギー極限の線形系が局在モードを有する場合に、
局在モード、および非局在モードが
エネルギー上昇とともに非線形性を獲得したときに
その安定性がどのように変化するかについて調べました。
その結果、
非局在モードは不安定化、再安定化を繰り返しながら軌道不安定性を獲得しましたが、
局在モードは、安定なまま存在するだけでなく、局在性がどんどん強くなるという結果が得られました。
-
投稿準備中
DNAの力学応答
近年の実験技術の進歩により、
2重らせんのDNA分子に
さまざまな大きさの張力やトルクをあたえることが出来るようになりました。
これらの力学的な作用は、
ポリメラーゼが細胞内で転写をするさいにDNAのらせんをほどく際など、
生体内活動で実際に働いていると考えられています。
また、
真核生物のDNAは
ヒストンと呼ばれるタンパク多量体にまきついて
細胞内の核に収納されていますが、
このマクロ構造の力学的な形態やゆらぎの大きさと
遺伝子発現の活性度との関係が認識され、
エピジェニックスという分野を形成し活発に研究が進められています。
一方、
DNAをほどく方向にゆるくトルクを加えただけで、
DNAの核酸構造が
右巻きらせんのB-DNAと
左巻きらせんのZ-DNAとの間を頻繁に行き来するという実験研究や、
多数のconformationがある種の熱力学的な相として共存することも実証されています。
理論的には、
DNAのマクロ形状とDNAの水素結合状態との相互作用系として
DNAを取り扱うことのできる枠組みが必要となります。
そのような物理的モデルを構成するために、
まず
私たちは、
B-DNA、
Z-DNA、
S-DNA、
P-DNAなど、これまでに実測されたconformationのデータから
水素結合の多谷ポテンシャルを構成しました。
つぎに、
マクロなDNAの形状を特徴づけるスピノール変数を導入し、
最後に、
形状のスピノール場
と
水素結合のconformationとの相互作用を
ケージ原理でカップリングするとして導入しました。
このモデルは、
既存のモデルと異なり、
張力が小さいときのplectoneme形状や
DNAのconformation転移を一つの枠組みのなかで捉えることができます。
現在は、このモデルを用いて
マクロ形状と内部conformationとの相互作用として、
DNAの力学応答について調べています。
Teruaki Okushima, and Hiroshi Kuratsuji,
Phys. Rev. E 84, 021926 (2011) [journal]
[pdf]
さらに、上記のポテンシャルに加えて、DNAの運動エネルギーを取り入れること
で、DNAの構造と形状のダイナミクスを記述するラグランジアンを構成しました。
さらに、環境の効果をランジバン方程式として取り込み
DNAの相転移ダイナミクスを考察しました。
その結果、外部トルクが弱い場合には、ZからB DNAへの
構造転移ダイナミクスは
一様な核生成プロセスで進行するが、
外部トルクが強くなると空間的に非一様な不安定化のプロセスで
進行することが明らかになりました。
B DNAに対して弱いトルクを印可した場合について、
運動エネルギー$K$の緩和を考察しました。
その結果、$K \sim t^{-1}$の
ベキ的な減衰を示すことが分かりました。
Teruaki Okushima, and Hiroshi Kuratsuji,
Phys. Rev. E 86, 041905 (2012) [journal]
[pdf]
マイクロクラスター カイネティクスの複雑ネットワーク解析
-
マイクロクラスターはさまざまなconformationをもち、
時々刻々それらの構造間を遷移しています。
ポテンシャルのくぼみで局所平衡分布を仮定すると、
クラスターダイナミクスは、
ポテンシャルサドルを越えるポテンシャル極小間のホッピングとなります。
さまざまな極小とそれを繋ぐサドルからなる複雑なネットワーク構造を、
ダイクストラ アルゴリズムを用いて解析しました。
T. Okushima, T. Niiyama, K. S. Ikeda, and Y. Shimizu,
Phys. Rev. E 76, 036109 (2007) [journal]
[pdf]
T. Okushima, T. Niiyama, K. S. Ikeda, and Y. Shimizu,
Phys. Rev. E 80, 036112 (2009) [journal]
[pdf]
-
複雑な系ではポテンシャルのくぼみがたくさんあるため解析が困難になります。
ポテンシャルくぼみをグルーブに分割して、グループ間の遷移をうまく定義することで、
系を特徴付ける遅い緩和過程を精度よく分析することができることを示しました。
T. Okushima, T. Niiyama, K. S. Ikeda, and Y. Shimizu,
Phys. Rev. E 97, 021301(R) (2018) [journal]
[pdf]
[SupplementalMaterial.pdf]
-
有限時間\(\tau\)の遷移確率行列の性質と、
そのグラフ構造の\(\tau\)の変化に伴う変化との関係を示しました。
T. Okushima, T. Niiyama, K. S. Ikeda, and Y. Shimizu,
Phys. Rev. E 98, 032304 (2018) [journal]
[pdf]
-
さらに、マルコフ状態モデルにシンクとソースを接続して達成される非平衡定常状態を用いて、
平均初到達時間を計算するアルゴリズムを構成しました。
このアルゴリズムが行列の対角化の逆べき乗法と解釈されることから、
行列の最大固有値である遅い緩和時間を計算するためのシンクとソースを決定できること、
すなわち、マルコフ状態モデルの遅い緩和が平均初到達時間から計算できることを示しました。
T. Okushima, T. Niiyama, K. S. Ikeda, and Y. Shimizu,
Phys. Rev. E 100, 032311 (2019)[journal]
[pdf]
戻る
ホーム